〜初の一人旅はタイへ〜 Vol 6 ラストはまさかの金欠ピンチ
国と国との距離は、物理的なものじゃなくて、心の距離だったんだなぁ。
あぁ、なんか「動く」のってスゴい!この旅に出たことも、こうやってバスに揺られていることも、すべては私が動いたことから始まったんだ。人との出会いだって、動くことから始まる。こっちから出向くこともあれば、向こうからやって来ることもある。でも、心が動かされなければ、それは出会いにはならない。ただのすれ違いだ。ジーッとしていたって何も始まらないし、何も変わりはしない。心を動かす、体を動かす、なんでもいい。とにかくいつも、動いていることが大事なんだ。
これは「ガンジス河でバタフライ」でたかのさんが言っていたこと。
私の旅はまさに、この言葉通りに動いている。
翌朝、目の状態が気になって鏡を見ると、昨日よりも赤く腫れ、もともと小さくて細い目がさらに小さくなっていた。
内心ショックを受けてはいたが、ここはタイ。タイ人からしたら私の顔なんて気にならないだろう。それに一人で来てるから自分の写真を撮るわけでもないし、むしろ元からこういう顔だと、堂々としてればいいのだ。
と意外にも開き直っている自分がいた。日本にいたら、メイクや眼帯。何としてでも隠していただろう。
なのに、今の自分ときたら、、、なんなんだ。随分と気が大きくなったものだ。
せっかくだから、ここから少し離れて遺跡で有名なアユタヤに行ってみたくなった。
バスで2時間程で行けるという情報を仕入れ、さっそく町のバスターミナルへ。
あいにくすごい人だ。バスはたくさんあるものの行き先が全くわからない。
すかさず、「どこ行く?」とおっちゃんに聞かれたので「アユタヤーアユタヤー」と答えると、俺についてこいと言わんばかりに歩き出した。
そのままついて行くと、一台のバンが。バスではないが、何人かの外国人が乗っている。
もう一度アユタヤ?と確認すると、そうだと頷いた。
まあ、これだけ人も乗っていることだし大丈夫だろうと思いバンに乗り込むことに。
車内はクーラーが効いてるし、揺れも少ない。
車内を見渡したところヨーロッパ系、アジア系の観光客らしき人ばっかりだ。しかもみんなカップルだし。一人で乗ってるの私だけじゃん。
気にしない気にしない。と。
約1時間ほど走ったところで車が停車した。どうやら予定よりも早く着いたみたいだ。車から降りると、、、、
なんとそこは道路?というか周りに店や建物もない、芝生と木が生茂る道のど真ん中だった。
そして車から降りたのはなんと私だけ。え?
他のみんなは?とキョロキョロしていると、乗っていたバンは私を残し去っていった。
車内から手を振ってる外国人たち。
え〜〜〜〜?!?!
みんな降りないんかい!?嘘でしょ?!ここどこよ?!本当にアユタヤ??
誰もいないし。何よこの仕打ち!!!!と、とりあえず位置を確認。
でも位置が定まらない。
すると目の前に看板?標識的なものが英語でアユタヤと書いてある。
一応、ここはアユタヤなようだ。多分あの他の外国人はアユタヤ目当てではなかったのだ。私は途中で下ろされたってことか。
なんとなく状況が読めた。
しばらく道と言ってよいのかわからないが、歩いていると一台の車が私の隣で止まった。
車からおっちゃんが降りてきてカタコトの日本語を話し出した。
あーこれはインチキガイドの登場だ。
アユタヤの有名観光地を周るプランを進めてきた。
手には、観光地の写真と日本語で説明が書かれている。そして「友達ノート」と書かれたノートを私に見せてきた
おっちゃんは「ワタシダイジョブ、コワクナイ、アンゼンヨ」
いや、そういう人に限って怪しくて信用できないっつーの。
その手には乗るもんか。興味ないといった態度をとっていると。
「コレヨンデ、ミンナワタシノトモダチ、ワタシアンゼン」
強引に渡してきたので読むと、そこには
”このノートを読んだ日本人の方へ。わたしはこのガイドに多額のお金を請求されました。気をつけてください♡THANK YOU”
”このおじさんは、信用しないほうがいいです。詐欺です”
”このおじさんに言われた金額は通常の2倍です。必ず値切り交渉を♡”
読み進めながら私は思った。このノートに書いたほとんどの人はみんなこのおっちゃんに騙された被害者だ。文末に♡やありがとうの文字をわざと書いていかにも良いことが書いてある風を装っているだけで、日本語が読める人が見ればすぐにわかる。
あーおっちゃんいかにも自信ありげに誇らしい顔をしてノートを見せてきたけど、内容は全く理解していないのね。笑
もしここでこのおっちゃんのインチキツアーに付き合わなかったら、私はここで彷徨うことになる。帰りのバス停もここがどこだかわからないのだから。
それに、このおっちゃん一応お金をぼるだけで、危険な目には合わせないだろうし。
よし、ここは私が有利だ。これからおっちゃんがふっかけてくる値を下げてやろうじゃないの!
ノートを読んでなんだかノートを書いた顔も知らない日本人が私の味方になった気がして急に自信が湧いてきた。
「おっけー。で、おっちゃん私、この観光地7つ全部周りたいんだけど全部でいくらよ?」
おっちゃん「おーそうかそうか。
このプランはきっと気にいるよ。君はかわいいから特別に安くしてあげる。そうだな〜1700Bはどう?」
1700円といったらだいたい5700円近い値段だ!!
げっ!高い。高すぎるよ。
さすがノートにあれだけ書かれるだけあるわ。
そう言えばさっき車の中で所持金確認したんだった。確か私の全財産は1500B。。。。
って、無理じゃん。帰りのバス代だって残しておかなきゃいけないんだから。
私 「私は学生(大嘘)だからそんなにお金もってないよ」
おっちゃん「じゃあいくらならいいんだ?」
「500B」
「はあ?!?!君はなんてジョークがそんなうまいんだ?!500Bで行けるわけないだろう。」
とっさに出た500B。さすがに下げすぎたか。でもお金ないしな。
しばらく渋っていた。
するとおっちゃん「よし、わかったわかったじゃあ、好きなとこ4つ選べそうすれば800Bでいいぞ」
う〜んこれって得なのか損なのか。
微妙。まあ、でもこれで揉めるのも嫌だし。まあ、安全に穏便に。
仕方なく了承した。
おっちゃんはちょっとここで待ってろと言って急に車に乗ってどこかに行ってしまった。
数分すると一台のトゥクトゥクが来た。運転手はなんとお姉さん。どうやら案内するのはおっちゃんではなく、このお姉ちゃんらしい。髪を茶色く染めていて、大きな体。かなり貫禄がある。日本にいたらヤンママみたいな感じ、車内もかなりギラついている。
でも、女性ってだけでなんか安心した。なんとなく根拠のない信頼性のようなものを感じた。
彼女は英語は話せないようだったが、観光地に止まる度に笑顔でフレンドリーだった。私のカバンは車内に置いておいていいよ。と言ってくれたが、鞄の中にはパスポートやガイドブックやいろんなメモなど無くしたら困るものも入っているしな〜
大丈夫かな。悪いけど疑っちゃうな。
でも待てよ。そういえばこの姉ちゃん車内でもしきりにカタコトの英語で「マネー バッグ イン」と言っていたな。
その言葉が本心ならまあ、大丈夫か。
そんな心配は必要ないと確信できるくらい、お姉ちゃんは親切で頼りがいのある人だった。
行動の節々や表情から人の良さが伝わる。
この人の給料はいったいいくらで普段どんな生活をしているのだろう。
ふと、言葉が通じたらどれだけいいだろう。なんて思った。
その後も観光地をいくつか巡り、不安感なんて何一つなく、快適な時間を過ごしていた。
3つ目の観光地はどこ?と聞くと像に乗れる場所があるよ。と。
私は、タイに行ったら象に乗ってみたいと思っていたのでなんというグッドタイミング。これはきっと最高の思い出になるに違いない。私はあまりにも嬉しくてテンションMAX!!
お姉ちゃんも嬉しそうだった。
胸を弾ませ着いたのは、アユタヤパークとかいう像に乗れる観光地。たくさんの外国人。よく見ると日本人観光客もいるようだ。
お姉ちゃんも「さあ、着いたよ、思いっきり楽しんできて!私はここで待ってるからね」とわざわざチケット売り場まで付いてきてくれた。
パークのおばちゃんがカタコトの日本語で
「ゾウノリ 30プン シャシンツキ 1300B シャシンナシ 900B」
げ。。。高い。私の全財産は700B。
全然足らないじゃん。これはまた値切るか。
私「I HAVE NO MONEY!! I AM SYUDENT!!]
しきりに連呼した。
するとおばちゃん達もこの手の対応には慣れているのか
「ノー アカジ! アカジ!」
とどこでこの言葉を覚えたのかはわからないが、言い返してくる。
気づけば他のスタッフも集まってきて私を取り囲んだ。
げ?!何!?本当にお金ないんだってば!信じてよ〜〜
私は自分の財布の中を見せ、お金がないことを伝えた。
あ〜せっかくお姉ちゃんに連れてきてもらったのにな。像乗りたかったな。
すると騒ぎに気づいたお姉ちゃんが私の方へ来てくれた。
私は助かった〜と思うと同時に。もしかしたらお姉ちゃんはお金がない私を見捨てるかもしれない。言うたってお姉ちゃんだってここのスタッフと同様に商売人だ。それにここに来たのも私からお金を払わせるために連れてきたのかも。こことグルになっている可能性は十分ある。
もしも、私がお金を払わないとわかったら私を置いていくかもしれない、もしくはガイドブックに書いてったように知らない悪の組織みたいなとこに連れていって乱暴されたり、拉致されるかもしれない。。。
そんな不安が脳裏によぎり、お姉ちゃんへの申し訳なさとこの先どうなってしまうのかという不安が一気に押し寄せる。
お姉ちゃんは私のところに来るなり、状況がわからない様子だった。私が「ここは高すぎるよ」と伝えると、ここは正式なパークだから値下げはできないのよ。と。
その後パークのスタッフとタイ語で何やら話している。
何を話しているんだろう。私を拉致する話?売春する話か?
考えだすと、悪い方へばかり考えてしまう。
しばらく話し合いをするとお姉ちゃんは困ったような顔で私に
「お金本当にないの?」と。
私はタイバーツはこれで全部。あとはクレジットカードと万が一のために靴下に入れておいた1万円を見せた。
はぁ。お姉ちゃんもお客である私を連れてきた以上、1円も払わずさようならができない状況なんだろうな。
すると「ATM」と一言。
え?このスーパーすらない場所にATMがあるのか?
というか、ATMとか使ったことがないし、海外からお金おろせるのか?
ATMに関しては当時無知だった私は意味がわからなかった。
しかし、このやり場のない雰囲気と私を取り囲むみんなが全て敵に見えた。ここで従わないと命を落とすかもしれない。
脳裏に『日本人でタイを一人旅をしていた女性が拉致』というワードがよぎる。
あ〜それだけは勘弁。とにかく今はお姉さんに従おう。
きっとさっきの話し合いで、もう私からお金を出してもらうことしか考えてないはずだ。
少し走るとATMらしきものが。見るからに古く、周囲に警備員らしき人もいない。むき出しで設置されているATM。これじゃあ、暗証番号丸見えじゃん。
とかなり不安に思いながら、今はとにかくお金を手に入れなければならないのでとりあえずクレジットカードを入れてみる。
初めて使うATMのキャッシング、英語表記が全く理解できない。
とりあえず適当にボタンを押してみるが。
何度押してもカードが手元に戻ってきてしまう。
あ〜なんでお金下ろせないんだよ。これでお金が引き出せなかったら私どうなっちゃうんだろう。
内心かなり焦っていた。お金引き出せなかったなんてお姉さんに言ったら、こいつお金を出したくないから嘘ついてるって思われるかな。
あ〜どうしよう。
そうこうあたふたしていると、お姉さんがやってきた。
私がお金を引き出せていないことがわかると、トゥクトゥクに戻れと手で合図した。
その時のお姉さんは微笑んでいるようにも、冷ややかな笑みのようにもどちらとも見えた。もはや、お姉さんが怒っているのかさえ分からない。
再び少し走ると、またATMの前で止まった。
ここでも試してみたら?とかなり軽い感じで私に一言。
あれ?私はここに着くまで心臓バクバクで頭の中はお金が下ろせなかったら、どうなってしまうのかという一大事だというのに、なんだこのお姉さんの口ぶりや、あっさりした態度は。
これがこれから私を拉致する人の態度とは、どう考えても思えない。
そうして再びATMにトライ。
が、、、またしてもエラーの文字が。
もうこのATMが古くて壊れているのか、もしくは私のクレジットカードが海外に対応していないのか。よくわからなくなってきた。
お姉さんにここもダメというと。更にまた違うATM。そしてここもダメだった。
おねえさんもさすがにもうこの辺にATMはないよ。と。
私は、日本円の1万円札を出し
「これ日本のお金なんだけど、これで払っちゃダメかな?
さっきのスタッフに交渉できる?入場料の2倍以上の価値があるからさ」
すると、お姉さん何も答えず、再びトゥクトゥクを走らせた。
到着したのはなんと、、、、、
両替所。
え〜〜〜?!?!両替所あるの?!てか、もっと早く連れていってよ!!
無事にタイバーツゲット。ふっ。
何だったんだ、この予想外の結末は。
散々私の心を不安にし、ATM探しに夢中になり、お金が下せない度にこの世の終わりみたいな気持ちになり。
ふーーっ。本当に疲れた。でもこうしてお姉さんが嫌な顔せず、私のお金調達に付き合ってくれた。
わかったことはこの人は悪い人ではないということ。
そうだったのだ、アユタヤパークでスタッフとあ姉さんが話していたことは、私を拉致する話ではなくて、お金を調達して戻ってくるということ。
私が像に乗りたがってたことをお姉さんは知って、きっとその願いを叶えてくれようとしてたんじゃないのかな。
疑った自分が情けなくなった。
再びアユタヤパークに行くと、待っていたと言わんばかりに私を囲むスタッフ達。
まったく。さっきまでの一文ナシの自分はどこへやら。
今や大金を手にし、億万長者の気分になった気持ちだ。
もちろん写真付きの像ノリプランを。
写真はまさかの虎とのツーショット。
そして像に乗った!
その間にも、カバンを持ってくれたスタッフ。写真を撮ってくれたスタッフ。頼んでもないのに勝手に私に親切にしてきた人たちから「チップチップ」とせがまれる始末。
何なんだよ。まったく。
ええい、私は億万長者だ!くれてやる〜〜
完全に頭おかしくなってきた。
さっきまで拉致とか殺害とかそんなことばかり考えていた自分が、馬鹿みたいだった
念願の像乗りに大満足して、お姉さんの待つトゥクトゥクへ。
私の満足した表情を見て、お姉さんも嬉しそうだった。
日も暮れてきたところで、帰りの手段やどこからバンコクに帰るのか、、お姉さんに聞くと、笑顔で大丈夫。との一言。
この大丈夫は信じられると確信できた。
私はそれ以上何も聞かず、仮にお姉さんからチップを多く請求されても、私をここまで満足させてくれたこと、親切心でATMを探してくれたこと。そして何よりお姉さんと一緒にいる時間が楽しかったこと全てに感謝の気持ちとしてチップという形でお礼をしようと考えていた。
なんとお姉さんが連れてきてくれたのはバンコク行きのバス停。行きに乗ってきたのと同じようなバンもある。
お姉さんが運転手と交渉してくれ、
「これに乗ってバンコクに帰って」
と帰りの足まで確保してくれたのだ。そこまで親切にしてくれたことが嬉しくて、何だか泣きそうになった。
お別れの時。
結局お姉さんは最後までチップをせがまなかった。
どうしてもお姉さんとの思い出を残したくて腫れた目ではあったが、一緒に写真を撮った。
別れの挨拶のとき、気持ちと言ってチップを渡し、バンコク行きのバンに乗り込んだ。
ひとつひとつの選択が新たな出会いにつながって、次の旅先がおのずと決まっていくことの不思議さを、私は感じずにはいられなかった。
知らず知らずのうちに私は、何もかも自分で決めて動いている。自分の人生をこの手でつかんでいるような気がした。食べたい物も、泊まりたい宿も、仲良くなりたい人も、行きたい場所も、目的地に向かう方法も、すべては私の選択にゆだねられているのだ。
そう、たかのさんが言うように、この旅では私が主人公であり、私の選択によって物語は大きく変わっていくように感じた。
窓から見える夕日を眺めながら、今日あった出来事を振り返る。
これまで、1日の中でこんなにもドキドキしたり、ワクワクしたり、恐怖心や安心感を感じたことがあっただろうか。
ここに来なかったら一生会うことはなかったであろう人たち。
人の内面というのは外見や国籍で判断できるものではない。
直接関わってみて、お互いをわかり合おうとすること、お互いがハッピーであるために行動すること。
とても簡単なことだけど、今の自分にはすごく難しいことがよくわかった。
いよいよ明日で旅は終わりだ。
いろいろな感情が入り乱れた後だったが、不思議とものすごい達成感が私を満たしていた。
こんな私でも異国に一人で来れた。
何よりも自分で自分をやるじゃん!と思えた瞬間でもあった。
ありがとう、私に関わってくれた人たち。
〜初の一人旅はタイへ〜 the end